診察で「がん」と告知されたときは驚きと戸惑いで頭の中が真っ白になってしまうほどに心が落ち着かなくなる病ですね。
しかしこのような状況でも今後の治療方法と目的を定めること,心の持ちかたを変えることで悩み事から先の目標へとつながることでしょう。
ここから先は胃がんについての基礎知識をお伝えします。
胃がんの基礎知識
胃の臓器は5つの構造で構成されています。
胃の構造
胃は食道からつながる袋状の臓器で入口は噴門、十二指腸につながる出口は幽門と呼ばれ、胃の内部構造は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜と5つの層で構成されています。
胃がんとは
胃がんは内部の粘膜細胞が「がん細胞」に変化していき次第に粘膜下層から漿膜へ進んでいきます。胃の外側まで進行すると近くにある臓器に移転することがあり、膵臓、肝臓、横隔膜などに広がることが懸念されます。この様に周囲に広まることを「浸潤」と呼びます。
そして胃の外側には臓器を包む「腹膜」という大きな細胞膜が胃や小腸、大腸、肝臓、胆のう、卵管、子宮を包むように覆われています。
がん細胞はこれらの臓器の内部から発症し進行すると腹膜に進んで行きます。この状態を「腹膜番種」といいます。
拡散していく細胞がんは細胞分裂を繰り返し、初期の段階では肉眼では見えなかったがん細胞が腹膜に付着し固まりのように見えてきた段階で「肉眼的腹膜願種」と呼びます。ころには便秘、腹痛、吐き気、嘔吐など症状が出てくるようです。
さらに進行すると膨満感、便秘、腹痛、吐き気、嘔吐などの症状が始まり、腸閉そく、黄疸、尿管が狭くなる水腎症などの症状となります。
次第にお腹に水が溜まりその中のがん細胞が全身に回る症状もあります。この症状を「がん性腹膜炎」といいます。
参考文献:日本腹膜播種研究会「腹膜播種とは」
https://fukumakuhashu.jp/peritonealmetastasis.html
胃がんの原因
胃がんが発生する原因として指摘される4つのことは……
ヘリコバクター・ピロリ菌*¹、喫煙、大量の飲酒、多量の塩分の4つは気を付けたい要素です。
*¹ヘリコバクター・ピロリ菌とは胃の中で炎症を起こす細菌
ピロリ菌に感染したからと言って胃がんになるわけではなく発生リスクが高いと言われています。ピロリ菌を除去することで胃がん発生率は低くなっています。
そして塩分の多い食生活や多量の飲酒、多くの喫煙を繰り返す生活を繰り返していることが胃がんの発生につながる可能性が高いと言われています。
ステージ分類と進行過程
胃がんのステージは進行度の特定であり国際的な分類方法はTNM分類と言われています。がんの深達度T因子、リンパ節移転の有無N因子、離れた臓器の転移M因子で3つの因子の評価で判断されています。T1、T2、T3、T4a、T4b
T1 | 胃がんは粘膜、粘膜下層にとどまっている |
T2 | 胃がんは筋層に入り込んでいる |
T3 | 胃がんは筋層を越えて漿膜下層組織に浸潤している |
T4a | 胃がんは漿膜を超えている |
T4b | 胃がんは胃の表面に出て多臓器に広まっている |
そして私たちは医師から胃がんのステージを告げられます。数値はⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの4段階、目安はがんの深さとリンパ節転移の個数によってステージが決められています。また遠隔転移がある場合はがんの深さにかかわらずステージⅣとなります。
ステージⅠ | ⅠA:がんは粘膜まで ⅠB:がんは粘膜層にとどまっている |
ステージⅡ | ⅡA:がんは筋層まで ⅡB:がんは漿膜下層に達している |
ステージⅢ | ⅢA:がんは漿膜に達している ⅢB:がんは漿膜を超えている ⅢC:がんは他臓器に進んでいる |
ステージⅣ | がんは遠隔転移している、腹膜播種、がん性腹膜炎 |
検査の時点で進行分類したステージは「臨床分類」といいあくまでも予想であること、術後取り出した病変を組織検査ののち確定した診断が「病理分類」となります。検査の結果次第で予想ステージが変わることもあります。
胃がんの初期症状と徴候
胃がんが発生したら自覚症状はどのようなものでしょうか。
胃がんの初期症状
胃がんの初期症状は食欲不振、胃の痛み、不快感、違和感、吐き気、胃もたれなどですが生活している中でこのようなことは時々起きることだからと思い込み、「がん」であるなど考えることは少ないのではないでしょうか。それほど初期の段階では発見しずらいため定期的な検査は有効手段と言えます。
自覚症状と進行状況
がんから出血すると黒い便(血便)が出ますが胃潰瘍や胃炎でも血便と貧血症状など症状が続くため自身で判断することは危険です。黒い便が続くようであれば診察を受け内視鏡検査を受けることで病名が判断されることが先決です。
さらに 症状に胃の不快感、食事がつかえる、体重が減少することが続くようであれば内科や消化器内科に受診することをお勧めします。
担当医に病気について不明点を何でも聞くことや、今後の食事で気を付けることや治療費のことなど情報収集をしてネットで情報を集めて見こと、「がん相談支援センター」を利用することも心の支えとなるかもしれません。
胃がんの検査方法
胃がんの検査方法ではありませんが通常の健康診断の採血でピロリ菌抗体価とペプシノゲンの血中数値を測定する検査を受けることは胃がんの予防につながります。
ABC検診(胃がんリスク検診)
ABC検査は健診や検診で受けることができ採血だけの検査です。胃の萎縮を間接的に知ることができる検査でピロリ菌抗体価とペプシノゲン(胃の粘膜から分泌する消化酵素ペプシン)の血液中数値を測定します。よって胃がんを見つける検査ではありません。
ヘリコバクター・ピロリ菌検査
ピロリ菌の初回検査は血液中のピロリ菌抗体価測定であり健診でも受けることができます。保険診療でピロリ菌検査をする場合は胃のX線検査や胃カメラで萎縮性胃炎と胃潰瘍の診断を受けてからピロリ菌検査を受けます。
胃カメラを受ける前にピロリ菌検査を受けたい方は自費となります。
自覚症状がなくとも主治医に胃X線検査や内視鏡検査が必要と判断された場合は検査を受けることが大切です。
胃X線検査
胃X線検査は胃透視するもので造影剤を飲み込み、また注腸透視は肛門から造影剤を入れる検査です。画像はモノトーンで胃の形状と粘膜側の凹凸を読み取ることができます。臓器の大きさ、形態など体のどの位置に臓器が映し出されます。
内視鏡検査
小型カメラ約5㎜から10㎜程の細い管を口か鼻から挿入し食堂、胃十二指腸につながる辺りまで到達します。粘膜や凹凸の状態までカラー画像で鮮明に見ることができます。
カメラ挿入には痛みを軽減するために麻酔薬を経口摂取します。
胃がんの治療と療養
がん治療は内視鏡治療、外科治療(手術)、抗がん剤治療の化学治療が3本柱となっています。
内視鏡的切除
胃の粘膜にある比較的浅い箇所にある早期のがんは内視鏡治療が選択されます。組織検査の結果がんが拡散、リンパ節に移転いていると疑われる、再発リスクが高い場合は次の外科治療を行うでしょう。
外科治療
外科的治療は腹腔鏡手術と開腹術があり胃を切除、リンパ節の郭清を行います。
化学療法
がん細胞が胃から肺、肝臓などの臓器に移転、お腹にがん細胞が散布している場合(腹膜播種)が考えられる場合には化学療法を伴います。
CT検査などで捉えきれなかったがん細胞が後に増加するのを防ぐために術後化学療法をすることを「述語補助化学療法」と言っています。
抗がん剤や分子標的薬*²は日進月歩で研究されているので適応される薬の種類は新薬と変わってくるでしょう。
*²分子標的薬とはがん細胞の特定分子(遺伝子やたんぱく質)を特定し作用する薬のこと
胃がんの予防法
胃がんの予防法と生活習慣
塩辛い味の濃いものを薄味に 焼き魚や漬物に醬油をかける、味付けが濃いものが好きな方は注意です。塩分が高いものは胃の粘膜を荒らすことになるため発がん性物質を生成するきっかけとなります。
喫煙は控える
タバコは肺がんや咽頭がん発生のイメージがあるのですが、実は胃がんリスクを高めています。タバコの煙や肺を吸い込むことで胃にまで到達しているからです。
ストレスを抱え込まない
現在の情報社会ではストレスを抱えて生活している方はたくさんいると思います。ストレスが大きくなると自律神経の一部である副交感神経*³よりも交感神経*⁴が高くなるため胃の中では胃液の分泌量が減少し食べ物の消化に時間がかかり、胃の粘膜を傷つけることで胃がんの原因につながります。
また胃液の分泌量が少なくなるとピロリ菌が活動しやすくなり胃がんのリスクが高まります。
*³副交感神経とは休憩している時や睡眠時に体をリラックスさせ血圧、心拍数、筋肉の弛緩を下げる働きがあります。
*⁴交感神経とは身体の状態が活動や緊張で戦闘状態にさせ血圧、心拍数の上昇、汗をかく働きがあります。
野菜と果物を食べよう
国立がん研究センターのがん対策研究所予防関連プロジェクトのレポートから伝えられることは野菜や果物摂取が胃がん発生率に大きく関係していることです。
食生活で大切なことは動物性たんぱく質と同じように摂取して欲しいのが野菜と果物なのです。これらに含まれるビタミンCとβカロテン、フラボノイド、植物繊維などがん発生率に欠かせない食べ物です。
緑黄色野菜と果物を食べている方とほとんど食べていない方を比較するとほとんど食べない方は発生率が高い結果が出ています。
参考文献:国立がん研究センターのがん対策研究所予防関連プロジェクト
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/257.html
ビタミンCは美容にも欠かせない大切な成分です。こちらの美容学もご覧ください。
胃がんリスクを下げるための適度な運動
適度な身体活動量が多い方はがんにかかるリスクが低くなると言われています。身体を動かすことによって肥満が解消され、マクロファジーやナチュラルキラー細胞の免疫細胞の活動が良くなり、身体を動かすことでインシュリンのはたらきも良くなるかです。
毎日1時間程度の歩行や汗をかく運動など40分程度行う、またラジオ体操をすることも体に良いことです。
胃がんと年齢
胃がん発生リスクと年齢の関係
「標準治療」という言葉がありますが医師との会話で耳にすることがありませんか。標準治療とは世界で行われた研究結果を元に最も効果があり最善と認められた治療方法です。しかし75歳以上の治療方法は確立されていないようです。
高年齢になるほど合併症と副作用のリスクが高くなり、また寝ている状態が続くと肺炎にもかかりやすく体力が衰える危険があります。
高齢者のがん発症率は年齢を重ねるごとに増加傾向になっています。下記で確認してみましょう。
厚生労働省による「性別・年齢階級別がん罹患者数(1975年、2013年)のデータを読み取ると、がんは50代から発生する確率が高くなり、男性は70代を過ぎると女性の2倍程がん発症率が高くなっています。
出典:厚生労働省「性別・年齢階級別がん罹患者数(1975年、2013年)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/18/backdata/01-01-02-02.html
まとめ
がんを予防するには日ごろからの食生活にて野菜や果物を摂取することやタバコや辛い物を控えることが大切です。またストレスを抱え込むことを減らして適度な運動を心がけましょう。
がんは定期健診を毎年行うことと、胃が痛むことや吐き気や胃もたれを繰り返すならバリュウム検査や胃カメラ検査をすることを検討しましょう。そうすることでピロリ菌、がん細胞を早期発見しやすく予防できます。
がんについてわからないことは担当医と相談するこや情報収集をして今後の対策を考え、方向性を見出していきましょう。
参考文献:国立がん研究センターがん対策研究所がん情報提供部「胃がん」
胃がん (ganjoho.jp)
参考文献:日本消化器内視鏡学会「消化管造影検査(バリュウム)と内視鏡検査の違いは何ですか?」
https://www.jges.net/citizen/faq/general_02
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